>>> English page is here ! <<<


本研究室では「エネルギー環境問題を意識したあらたな情報通信社会を目指して」をテーマに、無線通信、通信用電源、ニューラルネットワークに関する研究を行っています。

環境と通信

IoT(Internet of Things)技術の発展により、あらゆるセンサに無線発信機が取り付け、多種多様なデータを自動的に収集できるようになってきました。IoTで得られた情報をAI(Artificial Intelligence)で処理すれば、人の手を介することなく、リアルタイム環境データから我々をサポートする知的環境システムを実現できます。しかし、IoTネットワーク上でリアルタイムに大量の情報を取得されるためには、通信技術のさらなる発展が必要であり、また、情報の売買システムを構築することも喫緊の課題です。

当研究室では、TCP(Transmission Control Protocol)を改良し、複数の通信路(無線と光など種類が変わっても構わない)を用いて情報を送ることにより、通信容量および通信の頑強性の向上を目指してMultipath TCPの研究開発を、世界的に主導して進めています。また、IoTの環境情報の売買をシームレスで行うことができる電子決済システムの構築を目指しています。

電源回路とエネルギー環境問題

現在、太陽光、風力、振動、電波などあらゆる自然エネルギー(グリーンエネルギー)を有効利用する「エネルギーハーベスティング」技術が注目を集めています。ここで、大事なことは、人類はこれらエネルギーを最終的には「電気」にして使うことになる点です。自然エネルギーから人にとって使い勝手の良い電気の形に修正する回路が「電源回路」であり、この電源回路における電力損失を削減することは、自然エネルギーを真の意味で有効活用するためのキーテクノロジとなります。

当研究室では、各種無線電力伝送システム、EV向け電源、その他基礎技術の確立に向けて研究を進めています。エネルギー損失を低減する電源回路設計ソフトウェアを開発し、高性能な電源回路の開発速度を加速させることにより、エネルギー環境問題に貢献します。

知的IoTネットワーク

IoT(Internet of Things)ネットワークは、多種多様な情報をリアルタイムで取得し、サーバに収集します。そして、サーバ上でデータを処理して我々の生活をサポートする情報を提供します。しかし、サーバにあまりのも大量の情報が集めようとしても、通信容量には限界があり限界があります(情報爆発)。また、サーバ基地の消費電力は膨大で、発電所が必要とされるくらいの電力を消費しています。

当研究室では、IoTネットワークとスパイキングニューラルネットワーク(SNN)を「ネットワーク」のもとで統合することにより、IoTネットワークのAI化を目指しています。IoTネットワークの中で知的情報処理ができるためサーバが不要となります。したがって消費電力を大きく削減できるため、環境問題に貢献します。

これらの研究は全く異なる分野のように見えますが、実は共通のキーワードのもとに成り立っています。そのキーワードは「システム開発,ソフトウェア開発,最適化」です。

システム開発

当研究室で取り扱う研究課題はいずれも「システム」の設計、構築に関する研究です。システムをブラックボックス化せず、システムと入出力関係を明確にしながら議論を進めることにこだわります。数式から逃げることなく解析に挑戦し続けることにより、解析に関する様々なノウハウを蓄積しています。さらに「実験による実証」を必須とし、実システムへの実装を通じてさまざまなノウハウを蓄積しています(それらは研究室の強みであり財産です)。

ソフトウェア開発

情報工学コースである利点を最大限に活かし、システム設計のための「ソフトウェア」を開発できることが当研究室の特色のひとつです。複雑システム開発を計算機の力で実現するCAD(Computer Aided Design) ソフトウェアの開発を推進しています。一方、通信システムの実装において、ソフトウェアでネットワークを構築するSDN(Software Defined Network)の研究開発が本格化しています。当研究室ではSDN技術をフル活用したネットワーク実装を進めています。

最適化

システムが大規模、複雑化する現在、あらゆる分野において複数の所望の条件を同時に満足する「最適化」が必要になっています。当研究室で扱う研究テーマのほとんどは「最適化問題」に帰着します。ひとことに最適化といっても様々なアプローチがあり、様々な既存手法が存在します。システム設計を定式化した新しい問題に対し独自の最適化手法を設計することが大事な研究課題になります。

背景 - Background -

4G/LTE、5G、6G、IoTといったモバイル無線ネットワーク社会では、デバイスが複数のインターフェースを持つことが一般的になってきています。たとえば、4G/LTEとWi-FIが利用できるスマートフォンや、さまざまな無線技術を持つIoTゲートウェイなどがあります。また、このようなネットワークでの通信には、これまでTCP/IP(インターネットプロトコルスイートのひとつ)を使用してきました。TCP/IPの仕様上、送信側から受信側へのデータ転送に使用できるパスの本数は1つのみとなっています。したがって、デバイスは1つのインターフェースしか利用することができません。

マルチパスTCP - (MPTCP) -

マルチパスTCP(MPTCP)はTCPの拡張技術であり、 デバイス上のアプリケーションが複数のパスを同時に使用できるようにします。 複数のパスの同時使用により、 MPTCPは帯域幅(通信に使用する周波数)の増幅を実現します。さらにMPTCPは、パスに障害が発生した際も、通信の状態を安定させることできます。

研究課題 - Research Topics -

MPTCPはその利便性から、 すでに多くのプラットフォームに導入されています。 しかし、 MPTCPは比較的新しい技術であるため、 未だに普及するまでに至っていません。そのため、 その他の最新の技術と組み合わせた取り組みは未だ行われていません。そこで本研究室では、 MPTCPを様々な新しい技術に導入し、 性能の評価を行っています。 具体的な研究課題は次のようなものが挙げられます。

1. IoTルーターにおけるMPTCP

IoTルーターはIoTデバイスとサーバー間でデータの中継とルーティングを行うデバイスです。 IoTのネットワークにおいてIoTルーターは重要な役割を担っています。 多くのIoTデバイスがひとつのIoTルーターに集中して接続した場合、 混雑によりネットワークの性能が低下してしまいます。 そこで、 混雑を解消するだけの高いスループットと耐障害性を導入すべく、 IoTルーターとサーバーの間にMPTCPを実装しています。また、設計したネットワークにおけるMPTCPの評価を行っています。

2. ユーザー端末の設定変更が不要なMPTCP

前述のとおり、MPTCPはTCPの拡張技術であり、MPTCPを使用した通信を行うには、通信するユーザー端末と宛先のデバイス(サーバーなど)が、MPTCPを利用できるように設定しなければなりません。公平性に基づき、すべてのユーザー端末がMPTCPを利用できるようになるには、スマホやタブレット、パソコンなど、多くのデバイスに手を加える必要があります。そこで本研究室では、マルチパス通信機能をネットワーク中継機器(スイッチやアクセスポイントなど)に施すことで、ユーザー端末はそれらに接続するだけでマルチパス通信を可能にする技術を実装しています。具体的には、Software-Defined Networking(SDN)におけるデータプレーンを直接プログラムすることができる言語、Programming Protocol-Independent Packet Processors(P4)を用いてマルチパス通信機能をネットワーク中継機器に実装し、実験、評価を行っています。

背景 - Background -

インターネット環境は徐々にIoT(Internet of Things)環境に変わりつつあり、多くのIoTデバイスがインターネットに接続されるようになりました。 そのため、Human to Human(人間対人間)であった従来のネットワークは、IoT環境に基づいた、Machine to Machine(機械対機械)のネットワークに対応する必要があります。 このMachine to Machineネットワークを実現する技術として、マイクロペイメントがあります。マイクロペイメントは、数円ほどの少額決済のことを意味します。



IoTデータ決済システム - IoT Data Payment System -

IoTデータ決済システムとは、IoTデバイスで所得したデータを、電子取引によって売買を行うシステムです。 IoTデバイスでは少量のデータを高速に取り扱うため、数円や数十円などの少額決済をリアルタイムで取引することが求められます。 そのため、IoTデータ決済システムでは、分散台帳技術を用いたデータ管理と、仮想通貨による決済方式を利用したマイクロペイメントシステムが必要になります。


研究課題 - Research Topics -

IoTデータ決済システムは、今後様々な場面で使われることが想定されます。しかし、従来のブロックチェーン技術を使用した仮想通貨は、計算コストが大きすぎるため、IoT環境に適していません。そのため、当研究室では、IoT環境に適している、新しい仮想通貨を用いた、IoTデータ決済システムの作成を目指しています。

1. プライベートブロックチェーンのIoTデバイスへの実装

ブロックチェーンは、多くの仮想通貨に使用されている分散台帳技術です。ブロックチェーンのデータ管理方法は、そのセキュリティの高さから、様々な技術に使われることが見込まれています。しかし、ブロックチェーンに必要不可欠な「マイニング」という計算作業は、低リソースのIoTデバイスには、大きすぎるものとなっています。そのため、当研究室では、IoTデバイスにマイニングを行わない「非マイニングノード」を実装し、IoTネットワークを構築しています。このネットワークを構築し、IoTデバイスに軽量ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨の決済システムが実装を目指しています。

2. 仮想通貨「IOTA」を用いた決済システムの作成

IOTAは独自の分散台帳技術を用いてデータ管理を行う仮想通貨です。そのデータ管理方法により、取引手数料が無料で、高速な取引が可能になっています。そのため、少額決済をリアルタイムで取引を行うIoTに最適なものとなっています。そこで、当研究室では、IoTデバイスにIOTAを用いた少額決済システムの実装を目指しています。IOTAは最新技術であるため、先行研究が非常に少なく、このシステムを実装することで、多くのものに活用できる決済システムの実現に繋がります。

背景 - Background -

現在の高度情報化社会の中で機器の「小型化」は極めて重要です。この小型化のボトルネックとなっているのが電源回路(電圧を変換し、各電子部品が動作するための電圧に変換するもの)です。その理由は電源回路にはコイル(インダクタ)が必要であり、コイルはその構造上どうしても体積・重量を取ります。コイルの小型化のためには、回路の動作周波数を高くすること、つまり「高周波化」が有効です。また、電池を長持ちさせるためには、いかにロスなく動作させるか、つまり高効率化が重要になります。我々は20年以上の長きに渡り、小型・高周波・高効率な電源回路開発の基礎技術を構築してきています。
ところで、近年GaN(窒化ガリウム)、SiC(炭化ケイ素)からなる次世代半導体が登場してきました。これがブレークスルーとなり、高周波化が現実可能なものとして意識されるようになってきました。その中で、蓄積してきた技術の有用性が認められることとなり、様々な共同研究へとつながっています(関係各社のみなさまに感謝申し上げます)。実システム開発において、これまで見えてこなかったさまざまな問題が浮き彫りとなり、それに対してあらたな技術を提案する必要があります。<\p>

E級スイッチング - Class E Switching -

電源回路、増幅器はトランジスタをスイッチ動作させて回路を動かします。トランジスタには寄生容量(コンデンサ)が内在し、そこにたまる電荷がエネルギー損失の要因となります。スイッチング損失は、スイッチの切り替わりにおいて、トランジスタの寄生容量にたまっている電荷が一気に放電することによって生じる損失です。周波数が高くなると、同じ時間で考えたときスイッチの回数が増えることを意味しますので、このスイッチング損失を以下に小さく抑えるかが高効率化への道となります。

このスイッチング損失への対応としての決定版とも言えるものがE級スイッチング技術です。E級スイッチング技術とは、スイッチングの瞬間に、トランジスタにかかる電圧が零、およびその傾きも零とする技術で、もし、E級スイッチングを満足すると、その回路は高周波数下で高効率な動作を実現することができます。もしトランジスタにかかる電圧が零だとすると、寄生容量の中に貯まっている電荷は零ということになります(Q=Cv)。よって、その瞬間にスイッチが切り替わっても、放電する電荷がありませんから、損失は発生しません。また、電圧の傾きを零とするということは、寄生容量に流れる電流も零とすることを意味します(i=Cdv/dt)。よって、電圧およびその傾きを零にするということは、寄生容量にかかる電圧、電流が共に零の瞬間にスイッチを切り替えることになり、多少理想と動作点がずれても、スイッチング損失は極めて低く抑えることができます。

研究課題 - Research Topics -

E級スイッチングを導入すると、高周波数において高効率動作が可能となります。しかし、負荷抵抗が変動すると、その特性が大きく変化し、効率が急激に劣化するという致命的欠点があります。この負荷変動に対する技術開発が喫緊の課題となります。この問題に対してふたつのアプローチにより解決策を提案・検討しています。

1. 特性可視化ソフトウェア開発と電源設計

負荷変動に対するシステムの動作変化を可視化するためのソフトウェアを開発しています。この技術は関屋が学生時代に提案したアルゴリズム[1]に端を発し、その後、改良が重ねられ現在に至ります。このソフトウェアを用いることで、負荷変動に対してシステムが高効率に動作し得るパラメータ空間を高速に可視化することに成功しました[2], [3]。このソフトウェアの出力から、システム制御の指針を得ることができ、システム設計の効率が格段に向上します。この技術をさらに発展させ、自動設計を実現するソフトウェア開発を目指しています。

2. 負荷非依存動作とそこから紡ぎだす新機能実現

問題の発生を根本から消し去ろうとする、挑戦的な研究開発も進めています。この基盤技術として、当研究室では「負荷非依存動作」に着目しています。負荷非依存動作では、負荷が変動してもスイッチング損失が理論的に発生しないことを保証しています。これは30年前に提案された古い技術なのですが、その当時具体的アプリケーションが存在せず、長い間日の目をみることがありませんでした。しかし、この技術には実応用において、さまざまな問題を抜本的に解決する破壊力があるような気がしています。そこで、我々はこの「負荷非依存動作」に光を当て、徹底的に掘り下げています。その結果、さまざまな電源回路に対し、負荷変動が生じても高効率であることを保証する動作モードを与えることに成功しています[4], [5]。この回路は奥が深く、さまざまな画期的技術につながる予感があり、現在さまざまな方向から調査検討を進めています[6]。

[1] Hiroo Sekiya, Iwao Sasase, and Shinsaku Mori, "Computation of design values for Class E amplifiers without using waveform equations,"IEEE Transactions on Circuits and Systems Part I: Fundamental Theory and Applications, vol.49, no.7, pp.966-978, July 2002.
[2] Yuta Yamada, Tomoharu Nagashima, Yoshifumi Ibuki, Yoshiki Fukumoto, Tatsuya Ikenari, and Hiroo Sekiya, "Design of a DC-DC converter with phase-controlled class-D ZVS invertrer,"IEEE Journal on Emerging and Selected Topics in Circuits and Systems(JETCAS), pp.354-363, July 2015.
[3] Shohei Saito, Shohei Mita, Wenqi Zhu, Hiroyuki Onishi, Shingo Nagaoka,Takeshi Uematsu, Kien Nguyen, and Hiroo Sekiya, "Novel design of soft-switching resonant converter with performance visualization algorithm,"IEEE Access, vol.8, pp.59922-59933, Mar. 2020.
[4] Natsumi Obinata, Weisen Luo, Xiuqin Wei, and Hiroo Sekiya, "Analysis of load-independent class-E inverter at any duty ratio,"The 45th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society (IECON 2019), pp.1615-1620, Oct. 2019.
[5] 駒中 綾乃,朱 聞起,関屋 大雄,グエンキエン,魏 秀欽, "任意の時比率における負荷非依存ZCS並列共振インバータの 解析と設計,"電子通信エネルギー技術研究会(EE), Jan. 2020.
[6] Shuya Matsuhashi, Yoshiro Hara,Kien Nguyen, Takeshi Uematsu, Shingo Nagaoka, Taichi Mishima, and Hiroo Sekiya, "Load-independent self-tuned parallel resonant power oscillator,"The Eleventh Annual Energy Conversion Congress and Exposition (ECCE2019), Detroit, MI, USA, pp.1571-1576, Oct. 2020.

千葉大学「特色ある研究活動」にも取り上げられていますのでご覧ください。)

背景 - Background -

「無線化」による利便性の向上は誰しもが体感しているところだと思います。たとえば、リモコンがあるため、我々は容易にエアコンやテレビをコントロールすることができます。ICT関連を見ても、インターネットの接続か無線化されたことによってスマホが登場し、我々の生活は一変しました。パソコン周りをみても、キーボード、マウスなどが無線化されることにより、機器の使い勝手は大幅にあがっています。このようなあらゆる電気機器が無線化される中で、最後に残った「有線」が電力を与えるための電線であると言われています。

例えばノートパソコンを充電するためには最終的には線でコンセントと接続しなければならないですし、デスクトップパソコンに至っては、いまだに電線がごちゃごちゃしている状況です。 さらに注目すべきは今、さまざまなものが「電気化」している世の中の流れです。 自動車は10年後にはEV(電気自動車)が当たり前になるでしょうし、飛行機も完全電気化が検討されています。 そうすると、これまで以上に「電力の与え方」の重要性が増していくことが予想されます。

無線電力伝送 - Wireless Power Transfer -

電力送電の無線化を目指すものが「無線電力伝送(WPT)」システムです。 iPhoneの「置くだけ充電」や、電子歯ブラシの充電などは身近な無線電力伝送の例です。 今後、テレビ、掃除機などの家電、EV(電気自動車)向けなどターゲットに特化したWPTシステムの開発が求められます。

電力を無線で送る方法として、磁界(コイル)を用いる方法、電界(コンデンサ)を用いる方法、電磁波を用いる方法がありますが、当研究室では主に磁界を用いる方法に注目します。 このとき、電力伝送システムの「小型化」を考えたとき、コイルを用いることから、高周波化が求められます。 このとき、我々の「高周波電源」の技術が応用できるのでは?という発想につながります。実際多くの共通点があり、その知見を活かすことで新しい技術を提案することができるはずです。

研究課題 - Research Topics -

当研究室では高周波無線電力伝送システムの研究開発を進めます。 これまで研究室として蓄積してきた高周波電源技術、特にE級スイッチングを活用することにより、高周波の中で、低損失に電力を送信するための基盤技術の確立を目指しています。 具体的な研究課題として次のようなものが挙げられます。

1. IoT機器向け充電

IoTデバイスは電池駆動を基本としており、電池が切れたらそのまま捨てることを前提にする場合もあります。 これは、電池交換、充電するための面倒を考えるとコスト的に見合わないためです。 IoTデバイスは「ばら撒いて」使うことを前提としており、化学物質を含んだ電池を含むデバイスがそのまま放置されると自然環境に悪影響を与えることもありえます。 もしWPTシステムが開発できればこの問題は抜本的に解決できます。

当研究室では、ドローンを用いたWPTシステムの実装を目指しています。 ドローンへの充電に関する研究は多く検討されているのですが、ドローンの移動性を無線給電に有効活用しようという研究はほとんど検討されておらず、これができると、空間的制約を排除した給電システムの実現につながります。

2. マルチホップ多出力システムの実現

例えば机の上に大きなコイルを置いたしましょう。 このとき、机のどこにおいても安定して充電できるようになるととても便利なことがイメージできると思います。 家の壁にコイルを埋め込んでおけば、壁掛けテレビやエアコンに電源ケーブルが不要になり、家のレイアウトに自由度が増します。 また、複数のコイルを介して電力を送れるようになれば、送電できる距離を延伸することができ、例えばロボットアームなど産業用ロボットへの給電を実現します。 ここでの問題として、コイルの内部では、その場所により磁界の強さがまちまちであり(終身ほど弱い)、場所によって給電能力にばらつきがあるという問題が生じます。

そこで、当研究室ではこれら多ホップ、他出力WPTシステムの数理モデルを導出し、そこから得られる知見からどこにおいても安定した電圧で給電可能なシステムの構築を目指しています。 そのために高周波電源のテーマで紹介した「負荷非依存動作」の適用可能性などを検討します。

背景 - Background -

IoT(Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence)は人間の能力(IoTは神経、AIは脳に相当)を飛躍的に拡張する技術です。 「未来投資戦略2018」においても、Society5.0を実現する中心技術として位置づけられており、 これらの技術の活用により従来の大量生産・大量消費型のモノ・サービスの提供ではない、個別化された製品やサービスの提供を実現し、 様々な社会課題を解決でき、大きな付加価値を生みます。

IoTは多種多様なセンサを無線通信でネットワーク化することにより、膨大なデータの自動的かつ継続的な収集を平易かつ安価に実現する技術です。 しかしながら、増大し続けるデータを処理するために、データセンタ毎に発電所が必要となるくらいの膨大な電力を消費しており、 環境・省エネルギーの意識の高まりに逆行している側面があります。 さらに、IoTの無線通信容量の限界により、データサーバに送信できるデータ量が限界に達しようとしています。これをデータ爆発と言います。












Wireless Brain-Inspired Computing(WiBIC)

ところで、生物の脳はパルス信号を授受することで、超高度な情報処理を極めて低いエネルギー消費で実現できています。 それを模倣したスパイキングニューラルネットワーク(Spiking Neural Network:SNN)に次世代AI(Artificial Intelligence)としての注目が集まっています。 ここで、情報を収集する「IoTネットワーク」とパルス列でニューロン間の情報伝達を行う「SNN」を「ネットワーク」の元に統合した無線SNNを提案し、それを基礎技術とする次世代情報処理プラットフォーム「WiBIC」を提唱しています。 WiBICは、IoTデバイスにニューロン機能を搭載することで、取得した環境情報をその場でパルス情報に変換し、知的情報処理を実現します。超低消費電力、電力供給を含めた完全無線化による移動度の高さに特徴を持ち、さらに学習により無線ネットワーク自身が多様な機能を獲得できるため、設置場所に制限されず低コストで多様な知的環境(Ambient Intelligence)システムを実現することができます。


研究課題 - Research Topics -

上述のように提唱したWiBICを実現するための研究開発を進めています。 第一段階として、回路の再構成が可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)でスパイキングニューロンを実装しました。 そして、FPGAニューロンで発火したスパイク信号をIoT無線デバイスを用いて、他のニューロンと相互に通信させます。 このとき、FPGAニューロンとIoTデバイスにセンサを装着させると、センサで観測したデータをその場で処理することができ、WiBICを実現できるはずです。

1. 無線スパイキングニューラルネットワークの実現

無線化による利便性の獲得がWiBICの利点であり、そのためにはシステムの完全無線化が求められます。 そこでFPGAニューロンを結合する無線通信方式の開発が重要な研究課題となります。 さらに、各デバイスへ電力を供給するための無線給電システムの開発を進めます。 このように、WiBICに関する研究は、通信、電源の研究いずれの知識を必要とする統合的研究課題となります。

2. 在室人数推定システムの開発

室内人数推定システムには、建物の空調や照明の管理を通じた EMS(Energy Management System)、 不審者侵入検知による防犯、さらにはコロナ禍においてにわかに注目されている人の密状態の感知など多様な波及効果が期待されます。 しかし、設置の容易度、コスト面で高い壁があるのが現状です。 そこで、WiBICにリザバコンピューティングを活用した環境情報による在室人数推定システムの開発を目指しています。

Copyright (C) 2001- S-Lab., Dept. of Information and Image Sciences, Faculty of Engineering, Chiba Univ. All Rights Reserved.