高周波電源回路

背景 - Background -

現在の高度情報化社会の中で機器の「小型化」は極めて重要です。この小型化のボトルネックとなっているのが電源回路(電圧を変換し、各電子部品が動作するための電圧に変換するもの)です。 その理由は電源回路にはコイル(インダクタ)が必要であり、コイルはその構造上どうしても体積・重量を取ります。 コイルの小型化のためには、回路の動作周波数を高くすること、つまり「高周波化」が有効です。 また、電池を長持ちさせるためには、いかにロスなく動作させるか、つまり高効率化が重要になります。我々は20年以上の長きに渡り、小型・高周波・高効率な電源回路開発の基礎技術を構築してきています。

ところで、近年GaN(窒化ガリウム)、SiC(炭化ケイ素)からなる次世代半導体が登場してきました。これがブレークスルーとなり、高周波化が現実可能なものとして意識されるようになってきました。 その中で、蓄積してきた技術の有用性が認められることとなり、様々な共同研究へとつながっています(関係各社のみなさまに感謝申し上げます)。 実システム開発において、これまで見えてこなかったさまざまな問題が浮き彫りとなり、それに対してあらたな技術を提案する必要があります。

E級スイッチング - Class E Switching -

電源回路、増幅器はトランジスタをスイッチ動作させて回路を動かします。 トランジスタには寄生容量(コンデンサ)が内在し、そこにたまる電荷がエネルギー損失の要因となります。 スイッチング損失は、スイッチの切り替わりにおいて、トランジスタの寄生容量にたまっている電荷が一気に放電することによって生じる損失です。 周波数が高くなると、同じ時間で考えたときスイッチの回数が増えることを意味しますので、このスイッチング損失を以下に小さく抑えるかが高効率化への道となります。

このスイッチング損失への対応としての決定版とも言えるものがE級スイッチング技術です。 E級スイッチング技術とは、スイッチングの瞬間に、トランジスタにかかる電圧が零、およびその傾きも零とする技術で、もし、E級スイッチングを満足すると、その回路は高周波数下で高効率な動作を実現することができます。 もしトランジスタにかかる電圧が零だとすると、寄生容量の中に貯まっている電荷は零ということになります(Q=Cv)。 よって、その瞬間にスイッチが切り替わっても、放電する電荷がありませんから、損失は発生しません。また、電圧の傾きを零とするということは、寄生容量に流れる電流も零とすることを意味します(i=Cdv/dt)。 よって、電圧およびその傾きを零にするということは、寄生容量にかかる電圧、電流が共に零の瞬間にスイッチを切り替えることになり、多少理想と動作点がずれても、スイッチング損失は極めて低く抑えることができます。

研究課題 - Research Topics -

E級スイッチングを導入すると、高周波数において高効率動作が可能となります。 しかし、負荷抵抗が変動すると、その特性が大きく変化し、効率が急激に劣化するという致命的欠点があります。 この負荷変動に対する技術開発が喫緊の課題となります。この問題に対してふたつのアプローチにより解決策を提案・検討しています。

1. 特性可視化ソフトウェア開発と電源設計

負荷変動に対するシステムの動作変化を可視化するためのソフトウェアを開発しています。この技術は関屋が学生時代に提案したアルゴリズムに端を発し、その後、改良が重ねられ現在に至ります。 このソフトウェアを用いることで、負荷変動に対してシステムが高効率に動作し得るパラメータ空間を高速に可視化することに成功しました。 このソフトウェアの出力から、システム制御の指針を得ることができ、システム設計の効率が格段に向上します。この技術をさらに発展させ、自動設計を実現するソフトウェア開発を目指しています。

2. 負荷非依存動作とそこから紡ぎだす新機能実現

問題の発生を根本から消し去ろうとする、挑戦的な研究開発も進めています。この基盤技術として、当研究室では「負荷非依存動作」に着目しています。 負荷非依存動作では、負荷が変動してもスイッチング損失が理論的に発生しないことを保証しています。 これは30年前に提案された古い技術なのですが、その当時具体的アプリケーションが存在せず、長い間日の目をみることがありませんでした。 しかし、この技術には実応用において、さまざまな問題を抜本的に解決する破壊力があるような気がしています。 そこで、我々はこの「負荷非依存動作」に光を当て、徹底的に掘り下げています。 その結果、さまざまな電源回路に対し、負荷変動が生じても高効率であることを保証する動作モードを与えることに成功しています。 この回路は奥が深く、さまざまな画期的技術につながる予感があり、現在さまざまな方向から調査検討を進めています。

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